原作者 宮本昌孝 「舞台化によせて」
『剣豪将軍義輝』は、過去に男性だけでなく女性読者からも映像化を期待する声がたびたびあったのですが、おそらく難しいだろうと思っていました。
そこに“舞台”のオファーがきて、まったく予想していなかった形だけに、驚きと同時に、面白いかもしれない、と。
義輝役の役者さんに会う前は、正直言うと、期待よりも不安のほうが大きかったんです。僕の中のイメージと違いすぎていたらどうしようって。でも、杞憂でした。写真撮影中の染谷俊之さんを見て「あっ、霞新十郎だ」って思ったんです。霞新十郎は、義輝が剣の奥義を会得するため、素姓を隠して廻国修行の旅に出たときに用いた変名です。義輝の成長過程の中で核となる青年の姿そのものならば、前後の時代もきっと演じられます。染谷さんは佇まいも素敵ですね。武家貴族の若者らしさが自然に出ていて、いまはもう彼を早く舞台で見たいとワクワクしています。
武家の世というのは、平清盛・源頼朝から江戸の最後の将軍・徳川慶喜まで、だいたい七百年くらいですが、戦国時代は人間で言えばその青春期にあたると僕は思っています。そして、義輝が輝きを放った頃は、武田信玄や上杉謙信が最強の時機を迎え、舞台にも登場する織田信長・豊臣秀吉・徳川家康ら戦国のスーパーヒーローたちはハツラツたる二十代で、彼ら自身もまた青春期のまっただなかでした。
生命を躍動させ、存分に輝かせてこそ青春です。現代も何ら変わらない若者の青春を、時代を超え、足利義輝ら若き男女に託して描いた作品。それが『剣豪将軍義輝』なのです。
『剣豪将軍義輝』は特に思い入れの強い作品で、取材から三年半かけて完成させました。この作品だけは……っていう思いが最初からあったので、他の事を一切やらずに書き下ろしで打ち込んだ。後にも先にもそんな無茶なことをした作品はないですね。
それを、染谷さんを筆頭に、登場人物と実年齢の変わらぬ若さと情熱をもつ役者さんたちが全身全霊で表現してくれる。本当に楽しみです。義輝と彼に関わる若者たちが命懸けで血湧き肉躍らせた戦国時代という青春時代。そのエネルギーをほとばしらせてお客さんたちの心を熱くさせ、大成功の舞台になる。そう信じています。